「さて、ここはどこなのかを先ずは知らなくてはいけないですね」

 まっすぐに伸びる線路の先に汽車が見えなくなってから、シロは自分を励ますようにそうつぶやいた。汽車がいなくなると線路脇から見えていた街への道がより一層はっきりと見える。シロは先ず、目印となるように立っている黒い街灯を目指すことにした。
 一歩一歩近づくたび高くなる街灯の姿にだんだんとその視線を上げていく。しばらくしてその足元まで来て振り返ると、元居た所までは思った以上に離れていた事に気が付いた。

ーーもっとすぐそばにあると思えたのに。

    ここから見ると、汽車が逆に小さく見えるのかもしれない。不思議なものだ。けれど、確かにあんな大きなものが街のすぐそばを走るのに近くを人が歩いていたらとても危険だ。建物の連なる通りまでここまで余裕を持たせるのはきっとその為なのだろう。

 シロは、街灯の上の方に揺らめく旗に「四」の文字が書かれているのを認めると、その太い柱の横に置かれていた黒い鉄製のベンチに座った。
    腰かけるとそれはひやりとシロの体温を奪っていったが、美しい唐草が意匠のとても雰囲気のあるものでシロは思わず小さな声をあげる。
    高く空に向かって立つ立派な黒い街灯は、太陽が昇る今はその灯りを見せてはいないけれど、おそらく何度も塗り替えられるうちにできたであろう歪な凹凸や剥がれた塗料が未だ見ぬ人々の存在とあたたかさをシロに教えてくれている。

ーーそれに、黒い色を見ていると、何故だか安心する。何故かは…わからないけど…。

 すると、そんな上ばかりを見ていたシロの足元に何かが一瞬ふわりと触れたような気がした。何気なく視線を下に落とすと、彼の瞳にどこからともなく現れた黒い猫が映し出される。

「わぁ…っ猫です……わぁ…!」

    喜び驚くシロにふわりと飛び上がると、それが当然のように黒猫はシロの隣で姿勢を正した。物怖じしないその慣れた様子に警戒は少しも感じない。
 人を怖がらないのならどこかの猫なのだろう。首輪は見当たらなかったが、その証拠に混じり気の無いつややかな黒い毛をその猫は凛として纏っていた。
 むしろ、シロの方がどきどきとして落ち着かない。勿論怖いからではなかった。どうやら自分は猫がとてもとても好きで仕方がないらしい、その事に気が付いたのだ。自分の事なのにと、少し可笑しくなりながら、隣の小さな存在に嬉しくなる。

「こんにちは」

 そう黒猫にシロは話しかけてみた。当たり前だが、返事は無い。けれどシロはそんな事は関係ないように隣の席に語り続ける。

「こんにちは…で良かったでしょうか。時計が無いので今が何時なのかわからなくて。僕はシロといいます。先程この街に着いたばかりなんです。猫さんはご存知かもしれませんが、あの向こうに走っている汽車で来ました。ここはとても大きな街のようですねっ」

 嬉し気に笑いかけながらシロはすらすらと自己紹介をする。すると黒猫がすい…と顔をこちらに向けた。自分を見上げて無言のままに座るその姿に愛しさを隠せずにまた笑いながら、シロは、その瞳が不思議な色をしている事に気が付いた。

「あれ、猫さんの瞳の色…」

 そう言って少し黒猫の瞳を覗き込もうとした時、シロの耳にゆっくりと何かが近づいてくる音が聞こえてきた。



 シロたちが座るベンチを境に、左には汽車への道、右には街へと入る道がある。そしてその音は線路を滑る車輪のものに似ていたので、思わずシロは先ほど来た方向を見つめたのだが、音はどうやら逆の建物が連なる道の方から聞こえるらしかった。
 首をひねり、今度は街の方を見つめていると確かに何かがこちらへ向かって近づいてくるのがシロにもわかる。

 音の正体を疑問に思いながらも改めて辺りをよく見てみると、ベンチの後ろからその音に向かってレールのようなものが敷かれている事に気がついた。
 ここに座ってすぐ黒猫にばかり意識が向いてしまっていたので今まで気が付かなかったようだ。その黒猫もシロと同じ方へ顔を向け、音の在り処へと視線を向けている。

 ほどなくして、それはシロたちの所まで走ってきた。何か乗り物の様なものを人が動かしているようだ。その人が動く度にキィという音がしている。その様子は、屋根の無い大きな箱のようなものを少年が運んでいるかのようにシロには見えた。
 あちらもシロたちの存在に気付いたらしい。おや…という表情が褐色の少年の赤い瞳に浮かんだのがわかった。
 その手にあるものを動かしてレールの終わりへと進んでくる。最後にもう一度キィと音を鳴らすと、初めて見る顔だな。旅人かい?と、気さくな雰囲気で少年がシロの傍へと降り立った。

 無造作に短く切り上げた白い髪に、小麦色の肌と赤い瞳を持つ、とても明るそうな少年だった。旅人かと聞かれて、シロはそういえば自分を何と説明すればよいのだろうと少し考えたが、あの手紙の差出人を探す事が自分の目的なのだから、その旅の途中というのは間違ってはいないだろう。
 少年が示してくれた肩書のようなものにシロは素直にうなづく事にする。

「はい、僕はシロといいます。先程この街に着いたばかりなんです」

 そう言って黒猫にしたものと同じような自己紹介をすると、少年も素直にシロの事を受け入れてくれたようだった。

「俺はルカシュ。ここで毎日トロッコを動かしてる」

 ルカシュは、素朴な襟のシャツの前を適度に開け、ゆったりとしたシルエットの長いズボンをはいていた。その裾は足首の所ですぼまっていて、しっかりと巻かれたきれいな腰布と相まってどこか異国の雰囲気を纏っている少年だった。
 …何故その装いを異国と感じたのかはわからない。自分はルカシュのような人たちがあまりいない所に居たのかもしれない…と、シロはまたひとつ自分の身の上を考える。

 確かに今のシロとルカシュの服装は似ているのは上に着ているシャツくらいだろう。それですら色も違うしシロはボタンを一番上までしっかりと留めている。
 明るい色彩のルカシュとシロではその服の色からしても雰囲気までもが異なっていた。
 だからと言ってシロがルカシュを、ルカシュがシロを見る目が変わるわけではなかったけれど。

 相変わらずシロの隣には黒猫が座っていたので、ルカシュは気を悪くする事も無くくつろいだ姿勢を取りながらシロのそばに立っている。シロはそれに気づくと席を譲ろうと立ち上がったが、それにしても…と話し始めた彼の言葉に驚き中途半端な体制のまま固まってしまった。

「そんなに上から下まで真っ黒だったから近くに来るまで気づかなかった…!後ろの街灯と遠目からじゃ区別ができないくらいだぞ。シロは髪も、瞳まで真っ黒なんだもんなぁ…」

 瞬間、ルカシュの言葉に、「えっ、僕の髪は黒なのですか?瞳まで…黒なの…ですか?」と、思わずそう聞き返してしまいそうになり、けれどそれは余りにも不自然だろうとシロは咄嗟に口をつぐむ。幸い話すことに夢中になっている彼はシロの内心の動揺には気が付かないでいてくれた。

ーーせっかく会えたのに自分の姿も知らない怪しい人だと思われてしまうところでした…

「ああ、そういえばその隣の黒猫と同じで何から何まで真っ黒だよな。その猫はシロが飼ってるのか?そいつもこの辺りじゃ見ない顔だ」

 ルカシュはそう言うと、黒猫をなでようと手を伸ばしたが、その不思議な瞳の色合いに気が付くと、何かを考えてからふいとその手を元に戻した。

 自分の髪と瞳の色を今更ながらに知ったシロはまだそれに驚きつつも、隣に大人しく座る黒猫がルカシュも知らない猫なのだという事の方が気になった。

「そうなんですね…。てっきりこの街の猫さんなんだと思ってました」

「最近来たやつなのかもしれないけど、俺は初めて見るな。珍しい瞳をしてるよなぁ…」

 そうなのだ。ルカシュが現れたので気がそれていたけれど、シロは黒猫の持つその不思議な瞳が気になって仕方がなかったのだ。
 左右の色が異なるオッドアイは、透明な緑のガラスのような右目に、左はまるで琥珀をはめ込んだようなそれは澄んだ瞳だった。
 じっと見つめ覗き込んでいると、吸い込まれ、自分が音も無く砕けていくようだとシロは無意識にそう思った。

 すると黒猫はふたりの視線から逃れたかったのか、その身を動かすと、シロが声をかける間もなく現れた時と同じ様にふわりとベンチから飛び降りた。一度シロを振り返り見つめた後、ルカシュが運んできた乗り物をひと蹴りしてからあざやかな街並みの中へと走っていく。その姿を名残惜しそうに見つめながら、
「あまり沢山見てしまったので怒ってしまったのでしょうか…」
と、ぽっかりと空いてしまった隣の席を見てシロが申し訳なさそうにつぶやいた。
 そんな彼を励まそうと、ルカシュはシロの少し長めに切りそろえた黒髪の上に手を置くと安心させるようにやさしく触れる。

「大丈夫、気にするな。きっと用事でも思い出したんだろ。だってほら、やっぱりあいつとシロの髪はすごくすごく、似てるから。だから絶対、大丈夫だ」

 ルカシュはそう言って笑うと、黒猫が消えた方を見ながらもう一度シロの頭をやさしくなでる。纏う色が同じだから大丈夫だなんておかしな理由だと思うけれど、不思議とそれは優しく染み込むようで…。

 「また会える」というルカシュの言葉に、シロもようやく、そうですねと、笑顔を見せた。



 これからどこへ向かうのかと聞かれて、シロがとりあえず街の中を歩いてみたいと答えると、ルカシュは、それならこのトロッコを上手く使うと良いとあの不思議な箱を指さした。
 トロッコと聞いて、シロは頭の中に浮かんだそれと目の前のものに随分と違いを感じたが、この街ではトロッコといえばこれを指すのだろうと早々にその疑問符をしまい込む。
 これは台座に在るレバーを上下に動かして進むトロッコで、ルカシュはその動力に使われている鉱石の助けを借りて自分はトロッコを操っているのだと身振り手振りで教えてくれた。

 なんでも、ルカシュの様なトロッコ使いはそれぞれの街の通りに必ずひとりはいるのだという。この街は汽車の走る大通りを中心にチェス盤の目の様に道が整えられているらしい。
 通りの入り口には必ず大きな街灯があり、その通りを示す旗がゆらめく。今シロの頭上に在る「四」の文字がそれらしかった。その下にはその通りだけを通うトロッコの乗り場があるのだそうだ。
 人々は対価を渡してそれに乗り、通りの先まで移動したり荷物を運んだりするらしい。勿論、道を歩いていても気にされたり怒られたりする事は無いようで、シロはそれを聞いてほっと胸をなでおろす。

 ルカシュはその中でこの四番街を仕事場としていて、六つの区画に分かれた街には自分を含めて六人のトロッコ使いがいるのだと誇らしげに話してくれる。
 この街に住む人々はほとんどが店を営むか職人として働いていて、それぞれの通りには様々な種類の店や工房が連なっている。けれどその通りの奥まで行くには時間がかかるという事で、このトロッコ客車はずい分昔から人々の生活に根付いているのだとルカシュは自分のトロッコを大切そうに見ながら教えてくれた。

「さっきもお客さんを乗せて帰ってきた所だったんだ。そうしたら、そこにシロがいた」

 今は誰も座っていないベンチを指さすと、ルカシュは人好きのする顔でにこりと笑う。良ければ乗っていくかとルカシュは言ってくれたが、シロはそれをゆっくりと見たいからという理由で穏やかに笑って断った。

 確かにその気持ちに偽りは無かったけれど、シロはルカシュの誘いをどうしても受ける事ができなかった。先程ルカシュは、トロッコに乗るには対価が必要だと言っていた。けれどもシロはこの身と大切な封筒以外何も持ってはいないのだ。
 素直にそう言えば、ルカシュはきっと心配してしまうだろう。旅人の身で支払うものを持たないシロを思うあまり、何かできる事は無いかと気を使わせてしまうはずだ。

ーー彼はきっと、そんなやさしい人だ

 初めてこの街を訪れた自分にルカシュはとても親切に色々な事を教えてくれた。それに、よく考えてみれば仕事中だったのであろう彼にこれ以上時間を割いてもらうのも申し訳なかった。ここが彼の仕事場ならば、また会う事もあるだろう。

 やさしいルカシュの笑顔を決して曇らせてはいけない。そう強く思うと、シロはもう一度ルカシュに丁寧に感謝を伝えた。そうして敢えてこことは反対側の街の方へと歩き出そうとして、ふと最後に思い出したようにルカシュに問いかける。

「ルカシュ、この街は何という名前なのですか?」

 その今更ながらの問いに声を出して笑ったルカシュは、別れのあいさつに手を上げながら笑顔でその答えを教えてくれた。

 それは。

 それはまるで、彼のような………名前だった。




「ここは色とりどりの街、ビエラだよ」








 「色とりどりの街ビエラ」その名が示すように、足を踏み入れた通りの街並みは様々な色であふれていた。

 ルカシュに迷惑をかけないようにと目指した入り口の街灯には「二」という文字がはためいており、ここが二番街なのだとシロに教えてくれている。
 道の左右に遠く、奥まで続く建物は店と店の間に空間とも呼べる区切りが無い。一見するとひとつの横長の建物を店ごとの境目で色分けしているようにも見えるけれど、近づいてみてみるとそういう訳でも無いようだった。
 連結するように十軒ほど続いた後、横道を挟みまたその先まで建物は延々と続いている。

 汽車の走る大通りと同様にそれぞれの区画の中もやはり十字に道が敷かれているらしい。
 各々の店が彩った石の壁は、シロが汽車の窓から見つけたあの虹のような色彩だった。こんなに沢山の色があふれているのにそれがきちんと並んで見えるのは、所々違いはあれど同じ造りの建物で統一しているからなのだろう。
 見たことも無いあざやかな街並みにシロはただただ瞬きを繰り返す。
 見上げると、店の入り口には同じ石造りの雨除けらしきものがあった。なるほど、これなら強い日差しや雨が降っても人々が買い物に困る事は無い。

 通りを行き交う人々はほとんどが人族のようだったが、中にはちらほらと他の種族の姿も見える。けれど彼らはビエラという街がそうであるように、独自の色を持ちながらも自然とこの世界にとけ込んでいる様にシロには思えた。

 この世界に他にどんな場所があるのかはわからなかったけれど、少なくともこのビエラでは、全ての存在は、みな等しい。
 シロはそんな風に沢山のものをやさしく許容するビエラという街が、とてもとても好きだと思った。



 改めて建物を巡ろうと、シロは黒いブーツで石畳を歩き出す。対価を持たないシロは決して店の中には入らないと最初から決めていたので、大きく開いた白枠の窓から店内の様子を食い入るように見て歩く。

 青壁の雑貨店、うす水色の品のある食器屋に、橙色の果物屋と桃色の壁は菓子店だ。中には大きな声を出しながら店頭で焼き立てのものを売る人もいる。辺りにはそのいい匂いが漂い、昼の時刻が近いのだろうか、そこに引き寄せられるように人々が集まり始めていた。

「そういえば今は何時なのでしょう…」

 店の中に入ればもしかしたら時間がわかったのかもしれないが、それができないシロはどこかに人々が共用している大きな時計などがないものかと探し始める。
 思い返してみても、汽車のそばにもトロッコ乗り場にも通りの入り口にさえ、人が集まりそうな場所にも関わらずそれは見当たらなかったはずだ。
 ルカシュがいた時に聞いておけば良かったと思ったけれど…それももう遅い。

 ならば誰かに…とシロは思ってはみるけれど、穏やかに見える人々とはいえその全てがルカシュの様な人とは限らない。旅人という肩書を深く尋ねられた時、自分には自分が何者なのかという事を伝えるものは何もないのだ。

 その恐れが、シロに誰かと会話する事を深く静かにためらわせていた。

 時計探しをあきらめたシロは、軒先から少し離れると頭上に広がる空を見上げる。
 曇っているせいか、太陽の位置はおぼろげにしかわからなかったが、少なくとも日暮れと夜と朝だけは空を頼りにわかるはずだと思い直すと、気持ちを切り替え、シロは再びあざやかな色の洪水へと戻っていったのだった。



 …それからどのくらい歩いただろうか。ふと疲れを感じて、シロはその足を止めた。通りの入り口からずい分と奥の方まで歩いてきた気がしている。
 左右に並ぶ店を交互に見ながらここまで目印にしていた横道の交差路を三回渡ってきていたが、気が付くとずい分と辺りを歩く人も減ってきている。そう思うと、見上げる空の明るさも少しかげった様に思われた。

 少し休憩しようかとどこか座れる場所を探していると、ふと、通り過ぎながら目に入った店の窓に探していたものを見た気がした。

「あれ…もしかして…」

 あても無くこの街の事を学びながら、シロは探している人へと繋がる何かが見つかればいいと歩き続けていた。けれど、たったひとつだけの封筒を頼りにどこに行けば良いのかすらわからない中で、だんだんとシロの中に焦りの様な感情が生まれていたのだ。
 瞳をかすめたそれは、自分が持っているものによく似ている気がして、シロは急いで踵を返すとひとつの白い店の前でその窓の中を覗き込む。

「手紙だ、手紙がこんなにたくさん…っ」

 少しためらいながらも覗き込むと、窓の中に美しく並ぶ様々な種類の封筒にシロは一瞬で目を奪われた。上質な紙でできているのであろうそれには美しい文様が施され、すぐそばには束ねられた便箋や封蝋、意匠を施した印もある。
 どうやらここは手紙を書くための道具を扱う店のようだった。
 中でも封筒の種類は外から見えるだけでも店内の壁一面に並べられているほどだ。白を基調としたそれにはきっと様々な文様が描かれているのだろうと、それを思うだけでシロの気持ちは高鳴った。

 シロのポケットにしまわれている封筒はそれは手触りの良いものだ。これを自分へと残してくれた誰かもきっと手紙を大切にする人なのだと思うと、シロの中に、早く会いたいという切なる願いが改めて刻み込まれる。

 窓の外からは眼鏡をかけたやさしそうな老紳士が沢山の手紙と共に緩やかな時を過ごしているのが見えた。
 シロはいっそ、この手紙を見せたら何かがわかるのではと考えた。けれど、やはり何も持たない自分が店の戸を叩くのは失礼な事だとシロには思えてならない。

 ズボンのポケットから大切な封筒を取り出してみる。そこには、やはり何も書かれてはおらず、切手の代わりにとでもいうように欠けた小さな石がかろうじて繋がれている。

 …するとシロは、改めてそれを見ていて自分が大切な事を見落としている事に気が付いた。

 手紙について知りたいのなら、それを扱う場所を、郵便局を探せば良いのだ。

 手紙を出せる訳では無いけれど、お店とは違いそれを専門に扱う場所ならこの手紙について尋ねる事をそこまで不思議には思われないだろう。それにもし疑われたとしても、今のシロにはそうする以外にこの手紙の事を知る術はおそらく無いと思われた。

「この街の、郵便局を探そう」

 励ますようにそう言うと、シロは元来た道を入り口の街灯を目指して走り出した。
誰もが利用する施設ならこの通りにあれば気づいていたはずだ。おそらく目的の建物は別の場所にあるのだろう。

 歩いてくる人たちにぶつからないよう気をつけながら、あたたかな色の道を黒いブーツで駆けてゆく。その石畳に長くどこまでも埋め込まれたトロッコのレールを見ながら、なるほど…確かにルカシュの言っていた事は本当だったとシロは彼のやさしい笑顔を思った。

 この街に住む人ならば他の通りへと続く便利な裏道を知っているのかもしれない。けれど、あいにくとシロにはそんなものはわからない。

ーー道に迷うくらいなら、まっすぐに走ればいい

 その先に自分の求める誰かがいるなら、どこまでも走りたいと、シロはそう…強く強く心から思った。